理事長 佐鹿 博信(横浜市立大学 名誉教授)
日本リハビリテーション医学会認定リハビリテーション科専門医
前 横浜市立大学医学部リハビリテーション科教授
理事長 佐鹿博信 身体障害者補助犬法の成立から14年が経過しました。
この間、様々な啓発普及活動が展開されてきました。それらは、厚労省による補助犬法啓発イベント、宝塚市障害者週間記念事業(補助犬シンポジウム)、身体障害者補助犬を推進する議員の会(補助犬議連)の啓発シンポジウム、日本身体障害者補助犬学会、訓練事業者主催の「介助犬フェスタ」「補助犬サミット」「補助犬キャンペーン」、24時間テレビチャリティー委員会による補助犬普及支援、JA共済連など各企業による支援の取り組みなどです。それでも、現在(2016年)の実働補助犬数は1122頭(盲導犬984、介助犬73、聴導犬65)です。東京や横浜に暮らしていても、街や電車で補助犬が「仕事」をしている場面に遭うことは非常に希です。
日本の補助犬の潜在的ニーズは、盲導犬で約3,000頭、介助犬で約15,000頭、聴導犬では調査がなく具体的な数は不明?と言われていますから、需要が供給に追いつかないというよりも、「補助犬のことは知っており興味を持っている障がい者は多いはずだが、補助犬を希望するまでには啓発されていない」と考えた方がよさそうです。街の中で補助犬と補助犬ユーザーを見かけないために、「補助犬を利用すれば社会参加が促進され、自分のQOLが向上する」という認識には達しないのでしょう。低い次元の悪循環に陥っているために補助犬の普及が妨げられているのだろうと思います(障がい者と補助犬希望者への調査活動が必要です)。
さらに、日本の多くの都道府県(北海道、東北、北陸、中国、沖縄)には、介助犬と聴導犬の訓練事業者と認定指定法人が存在していません。盲導犬の訓練事業所(国家公安委員会管轄)は、全国で14(うち日本盲導犬協会4)に過ぎません。障がい者と市民が補助犬にアクセスすることが広大な地域で保障されていないといえます。したがって、補助犬ユーザーへの希望者が増えてこないのはあたりまえでしょう。
補助犬育成に関しても繁殖犬からパピーファミリー(飼育委託ボランティア)まで、加えて、補助犬トレーナーの育成まで、訓練事業所が自前で取り組むことも多いようですが、訓練事業所間で連携してこれらの事業活動へ協同で取り組み協力し合うことも必要だと思います。
障害者差別解消法がようやく2016年4月に施行されました。2020年には東京パラリンピックです。補助犬の啓発普及にとって一大チャンスです。補助犬に関して、補助犬訓練事業者と補助犬ユーザー、獣医療関係者、リハ関係者、社会福祉士などの横断的なネットワーク形成を急ぐことが必要です。個々の事業者はそれぞれが啓発活動を熱心に継続し展開していますが、それらが連携し、ユーザー(希望者)と協働して啓発普及イベントを全国の主要都市で実施できるようになることを期待します。
補助犬ユーザーにとって、補助犬の管理と世話(排泄・給餌・グルーミング・保清・運動など)は大きな負担になっていると思います。リハ医療やリハ工学と協力し一人一人の障がい者の障害特性に合った補助具を開発し公開していくことや、ヘルパーを導入することなどにより、補助犬ユーザーの日常の管理負担を減らすことも大切だと思います(障害者福祉と連携して開発費助成や自立支援給付などを獲得する)。
全国の主要都市で補助犬の出張認定試験が行われるようになれば補助犬希望者と補助犬の距離が縮まるのではないでしょうか。この点でも訓練事業者と認定指定法人間で連携することが求められると思います。ただし、出張認定試験に要する費用を公的に請求できるような制度を整えなくてはなりません(認定指定法人が費用負担を担うと結局補助犬ユーザーに降りかかります)。
さらに、補助犬育成費用への公的助成を充実して、寄付金に頼った補助犬育成から脱することが不可欠です。補助犬トレーナー育成制度と資格制度(年収の保障)などを整える事は必須の課題です。
補助犬を伴った社会参加がどこでも目に見えるようになり、補助犬を希望する障がい者が増えていくように、日本補助犬情報センターの課題をしっかりと考え行動する所存です。
2016年7月
佐鹿 博信(横浜市立大学 名誉教授)
日本リハビリテーション医学会認定リハビリテーション科専門医
前 横浜市立大学医学部リハビリテーション科教授