ホーム > UDアドバイザー通信 > 第15回「バリアフリー観劇」
今回のUDアドバイザー通信では、当会理事松本&聴導犬チャンプ、アドバイザー中山さん(白杖ユーザー)、事務局スタッフの馳川で、訪問したバリアフリー観劇会の様子についてお伝えします。
目が見えなくても耳が聞こえなくても、テレビを観たいし、映画館で映画も観たいし、舞台演劇も楽しみたい。
そんな当たり前のことも少し前まではほとんど叶うことがありませんでした。
でも、少しずつ変わってきています。
字幕がついたり、音声ガイドがついたりする作品が増え、私たちの楽しみの枠が広がりつつあります。
そんなサービスの提供をしているサービスの一つがUDCast。
私が劇場で邦画を観るためには、このサービスが不可欠です。
そのUDCastのメルマガで、劇団・ヨーロッパ企画の舞台「あんなに優しかったゴーレム」がタブレットでの字幕に加えて、音声ガイドに対応するということを知った私。
メルマガでの情報によれば
①視覚障害者向け音声ガイドの提供(上演回限定)
②上演前に舞台装置の説明会実施
③キャスト総出演による登場人物の事前説明の映像提供
④駅からの送迎(希望制)
⑤介助者半額
視覚障害の方が舞台を観に行くにあたって、「あったらいいな」と思えるものが並んでまして、なんだか感動。
しかも申し込みのための連絡事項の中に「補助犬の有無」があるじゃないですか!!
これは行かないわけにいかない!
さっそく、情報センターのバリアフリーアドバイザーの中山さんと、センタースタッフ馳川も誘って観に行くことに!
この3人組でこれまでも、あれやこれや「バリアフリー企画」「ユニバーサルデザイン企画」に駆けつけ、レポートと称して楽しんできました。
最強の(笑)3人組で、小雨降る中、いざ東池袋「あうるすぽっと」へ!!
送迎はお願いしてなかったのですが、駅直結の建物に入ると、スタッフが看板などを持って何人も立っています。
チャンプと入っていった私に、身振りでエレベーターを指し示してくれます。
取り置きのチケットを受け取るカウンターでは、筆談ボードを出してきてくれました。私がUDトークのスマホを差し出すとそこに話しかけてくれ、スムーズなやりとり。
こうやって、字幕やガイドを提供してますって表示してくれることで、他のお客さんもそういうサービスがあること、必要とする人がいることを知るきっかけにもなるし、会場内でも「あれ、なに??」みたいにならないで済むから、ありがたいなぁと思います。
座席に着くと、中山さんには音声ガイド用のラジオが、私にはタブレットが届けられました。
タブレット、能楽祭の時は飛行機のシートのように前席の背面に埋め込まれてましたが、今回は三脚に固定されて足元に立てる方法。
タブレットは、上演中、周りの方の迷惑にならないように明るさ等が設定されていて、また、舞台を観つつ字幕を見るのに不自由のない位置と高さに自分で調整できるようになってました。
中山さんは普段使ってる機材と同じとのことで、安心してました。慣れないもの初めてのものが使いづらいのは、誰でも同じ。慣れていれば、まさに「手探り」でも使いこなせますからね。
チャンプも足元で丸まって準備OK(寝る準備、、ですが)
実は、申し込んだ後、座席のことで劇団スタッフとのやりとりがありました。
スタッフからは前が通路の足元の広い席を提案していただいていました。
そうですよね、補助犬といえばラブラドールなど大きな犬を想像しますから。
ですが、チャンプはご存知じのとおりトイプードル。
なので、広いスペースはいらないし、人が前を通る通路沿いより中の方が落ち着いて眠れるってことで、2列めにしていただきました。
(後で気づいたのですが、最初に提案された席には、盲導犬ユーザーさんが座ってました。)
上演前のアナウンスもきちんと字幕で出ました。「物販」のことを繰り返し言って、笑いを呼んでましたが、私も一緒に笑えた!やはり嬉しい!
本編もコメディ。
ポンポン飛び出すやりとりの言葉がタブレットに映し出され、俳優さんの声が聞こえてくる気になれます。場面変換の時の音楽も「静かなピアノの音楽」とか、なんとなくイメージできる説明が流れます。(耳にけっこう響いてきたので、「静か」の基準は定かでないですが)
セリフなしで目配せや動きで表現する場面は、音声ガイドで中山さんに伝わってるようです。
事前に舞台の状況や人物の姿形衣装の説明を受けてるから、きっと彼女の頭の中でそれらが1つのシーンになっているのでしょう。
ただ、コメディならではの、ポンポンとしたスピーディなセリフの応酬は、誰が誰に向けて話しているのかを音声ガイドで把握してついていくのはかなりしんどかった、とは言ってました。
しんみりした、メロドラマならまた違うのでしょう。そのあたりはまだまだ改善や工夫の余地がありそうですね。
ともあれ、聞こえる人だけが笑うんじゃなくて、聞こえない人も笑える。
見える人だけが笑うんじゃなくて、見えない人も笑える。
笑う場面でみんな一緒に笑えるのが嬉しい。
たったそれだけのことが、嬉しい。
劇団四季の舞台を字幕メガネで見たことはありました。
でも、四季の演目全てが対応しているわけでなく、限られたものだけ。
他の舞台ではほとんどバリアフリー対応がされてないのが現実。
でも、やればできるんですよ、こうやって。
UDCastは、これまでのような映画への対応をUDCastMovie、そして今回のような舞台などはUDCastLIVEとして提供していくとのこと。
そしてLIVEは演劇だけでなく、スポーツや演芸にも広がっていく可能性を持ってます。
スポーツ観戦の場内アナウンスも楽しめるようになるかもしれない。
いつか、吉本のステージで、売れる前の芸人の中にダイヤの原石を見つけられるかもしれない!なんだか楽しみ!
ちなみに今回の会場「あうるすぽっと」(豊島区立舞台芸術交流センター)
(「あうる」はowl。フクロウのこと。池袋→いけ「ふくろう」なのです)
「多様な人々が行き交うまちの「みんなの劇場」として、人と人、人と体験をつなぐ!」のコンセプトに反しない工夫がいくつも。
エレベータの案内は墨字(ひらがな)の上に透明アクリル板で点字が。
ひらがなであることで日本語が苦手な人にも読めるし、透明な板が重なってることで、スペースも取らない。
なるほど、な工夫。
また、シアター内の座席や舞台のレイアウトの触図もありました。
(劇の主人公?ゴーレムのレプリカを触ることができなかったのは残念。どんな形なのか、土の感触とか、中山さんに手で見せてあげたかったな。)
全てが100点満点ではないけど、でもこんなふうに、見えない人、聞こえない人にも楽しんでもらいたい!と、取り組んでくれることはやっぱり嬉しい。行ってよかった!(劇も面白かったし〜)
障害者へのサポート、支援っていうと、日常生活必要最低限のことだけなことが多い。
生きていくために必要なことへのサポートや支援はもちろんろん不可欠。
でも、娯楽だって大事な要素だと思うのです。
障害があろうと、なかろうと、補助犬を連れていようと、映画を観たい、舞台を観たい、お笑いを楽しみたい、スポーツ観戦したい、そんな思いはおなじ。
ちょっとした工夫や配慮や設備、、それによってお客さんの層が広がるなら興行的にも良いことなんじゃないかな?と思います。
だって、字幕や音声ガイドがなかったら、私たちはヨーロッパ企画さんのこと知らないままだったし、ゴーレムの舞台を観にいくこともなかったから。ちゃんと楽しめるから、割引がなくったっていい。
その分のコストをかけて、より多くの人が楽しめるようにしてくれる方が嬉しい。そんな社会になる方が嬉しい。
これからも情報センターのバリアフリーリサーチャー3人組はあっちこっち行って、試し、楽しみ、次に繋がる活動にしていきたいなぁ、と思っています。
チャンプも一緒に、ね!